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こだわりを持ったお商売を支える「STORES」のテクノロジー部門のメンバーによるブログです。

プログラミングの世界をもっとたくさんの人に知ってもらいたい【Rubyistめぐりvol.2 鳥井雪さん】

Rubyist Hotlinksにインスパイアされて始まったイベント『Rubyistめぐり』。第2回は鳥井雪さんをゲストに迎えて、お話を聞きました。本記事は後編です。

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Rails Girlsが時代遅れになる時がくるといい

藤村:このまま漫画の話で最後までいけるんですけど、Rubyに戻ります。鳥井さんと僕がプログラミングを始めたのも同じくらいの時期っぽいので。

鳥井:そうなんですね。

藤村:1年遅れて社会人になって、その夏ぐらいに始めて、その2年後ぐらいにRubyやり始めた感じなので。Rails Girlsって一番最初はいつでしたっけ?

鳥井:何年前でしたっけ?この間10周年になったんですよ。この間といっても1年前ですけど。

角谷:初回は2012年です。

藤村:どうやってRails Girlsを知りましたか?

鳥井:角谷さんがRails Girlsをやりたいんだけど、男性ばかりで開催するのはどうなの?ということで万葉に声をかけて、万葉は女性のプログラマーがいっぱいいるので、それで第1回のコーチをやったんだと思います。

藤村:クックパッドさんでやった時ですよね。

鳥井:そうです、めちゃくちゃキラキラしてた。キラキラが全面に押し出されてて、ちょっと居心地が悪かった。

藤村:あの頃って今よりも状況が悪かったというか、女性がコミュニティに少なかったと思いますが逆に問題意識がそこまであったかっていうと、今よりもなかった時期でしたよね。

鳥井:そうですね。だからそもそもなんでやるの?みたいな空気もあったり、逆差別みたいな言い方をされることがあって、毎回それとインターネットでバトルするっていう。

藤村:そうですよね、そのバトルに従事してましたね。

鳥井:うん。でもバトルしてると自分が強くなるんで。論理的な背景とか、人がこう言ってるとかを全部自分の武器にすることができるので、バトルもいいものですよ。

一同:(笑)

藤村:Rails Girlsは「ああ、いいんじゃない」みたいな感じでやってたんですか?

鳥井:そうですね、(プログラマーの)女性が増えるといいよねぐらいのノリでしたね。女性が増えるといいよねぐらいのノリでやっているのに、(インターネット上で)喧嘩をふっかけられるんですよね。

あと、RubyKaigiもちょうどその頃にジェンダー問題がいろいろ出てきた時期でした。Rubyのコミュニティで、なんでこれが問題になるの?と戸惑ってることがちょいちょいあったので、それの解説役などをやっていましたね。

藤村:そうですよね、なんか懐かしいですね。

鳥井:最近そんなこと聞かれなくなっていい時代だなって思っています。

藤村:本当ですね。説明をしなくてよくなったっていうのはすごい進歩なのかもしれない。この業界の女性比率を上げたほうがいいとか、そういう使命感をお持ちだったんですか?

鳥井:私が使命を持つようなことじゃないじゃないですか。私が業界を作るわけじゃないし。ただ、私は先ほどお話ししたようにラッキーでプログラマーになったし、素直に育ってたら、プログラマーにはならなかったと思うんです。なんでこんなに楽しい業界に全く触れないってことがあったんだろうっていうのがあって。

たぶん触れないような世界で生きていたのかなと思って、もう少し触れるチャンスがいろんな人にあった方がいいんじゃないかと思って。うっかりプログラマーになれちゃったラッキーがあったので、そのラッキーをもうちょっと他の人にも起きた方がいいというか、そういうチャンスが増えた方がいいんじゃないかなみたいな、ちょっと恩返しのような気持ちですね。

藤村:無限にパズルが出てくる場所っていうところの面白さ以外のところも、もしかしたらあったんじゃないかなと思うんですけど、何かあったんですか?

鳥井:なんかいい話にしようとしてますか。

藤村:そのつもりで聞いてみました。

鳥井:そうですね、もちろん喧嘩をふっかけられて答えていくうちに、明確に問題意識が育っていくというのもありました。例えば女性が奪われているチャンスとか、あるいは今まで奪われていたチャンスとか、経済的な機会ですよね。プログラマーという職は結構稼げるので、稼げるところに入れないことで開いている格差がすごいある。その辺はできるだけ是正できるといいよねという気持ちはすごいあります。

藤村:面白い世界だなっていうのはプログラミングそのもの以外のところに、例えばコミュニティがあったりとか。

鳥井:そうですね、それはたしかに。付き合いやすい人が多いじゃないですか。

藤村:そうですね。

鳥井:付き合いにくい人ばかりだなと感じるタイプの人もいると思うんですが、男女関係なく付き合いやすい人間が一定いるんですよ。付き合いやすいところがここにあるよって、生きていくのが楽なところがあるよっていうのは、道として開けているといいですよね。

藤村:社会の中にあんまり違和感なく話せる人がたくさんいるんだみたいな、それは想像してなかったですね。もうちょっと社会って大変なものだと気構えてたから。

鳥井:ここにいると甘やかされているところがありますよね、社会の厳しさを知らないみたいな。

藤村:ありがとうございます。Rails Girlsの10周年のイベントは去年のいつでしたっけ?

鳥井:冬だったと思います。

藤村:散々聞かれているかもしれないですけど、Rails Girlsの初期から関わってきて、今の状況に感想はありますか?

鳥井:Rails Girlsはみんなのものであって、私のものではないので、Rails Girlsが続いていく世界はいい世界だなと思っています。でも、最終的にはRails Girlsは時代遅れだよねってなるところを目指してほしいし、あと10年くらいでなるといいなって思います。

藤村:本当にすごいですよね。10年って。日本で何回行われてますか?

鳥井:めちゃくちゃありますよね。*1

藤村:しかも日本津々浦々みたいな感じですよね。

鳥井:そうです。

藤村:すごいですよ。現役でプログラマーになっている人も、数えきれないほどいるっていうのはすごいですよね。

鳥井:Rails Girlsのいいところは、その土地のプログラマーがコーチになって、その土地のRubyのコミュニティに入る入り口になるところなんですよね。やっている人たちが回している、意義を与えているイベントですね。

藤村:控えめなねずみ算式みたいな感じですね。

鳥井:そうです。別にプログラマーにならなくてもよくて、そういう世界があるということと、こういうことを考えている人たちがいるんだ。そして、この可能性があるんだって思えるだけでも全然違う。

例えばその人たちが、指導者側に、親御さんとか教師とか助言できる人とかの立場になることもあるじゃないですか。そこで、なんとなくどこに行っていいかわからない子どもたちに、こういうプログラムもあるよとか、あるいは、情報系に行きたいんだけど、周りがそんなによくわからない場合に手助けをしてあげられる、そういう可能性もすごい広がっていく場所だと思います。

藤村:どれぐらいの人の人生に影響を与えたんだろうと考えるとすごいですよね。延べの参加人数とその人が周りに話していくのを考えると。

鳥井:控えめなねずみ算ですからね。

藤村:鳥井さんはたくさんコーチもやられていたと思うんですけど、コーチをやっているときって何が大変で、何が面白かったですか?

鳥井:何が大変というのはそんなになくって、とりあえず嘘をつかないことかなと思う。あと、ごまかさないことが大事かなと思ってて。松田明さんと私がコーチをした寺嶋さんという女性がいるんです。後にRails Girlsでオーガナイザーにもなってくれたんですけど、あとで寺嶋さんに聞いたら、以前別の言語に触ろうとしたとき、とりあえずこのおまじないを書けみたいに言われて、書いた。それが納得いかなかったと。でも、松田さんや私に聞いたらめちゃくちゃ説明してくれる。おまじないとか言ってごまかさないから、この道で続けていこうと思ったと話されていて。私たちとしてはただ説明したいだけじゃないですか。ただ説明したいんですが、そういうところの波長があうといいよねって思いますね。

藤村:Homebrewのインストールだけで30分くらい説明できますよね。

鳥井:これは笹田さんの話なんですけど、私の方がRailsは詳しいので、Railsを一緒にやろうよとなって、rails newをするじゃないですか。newをしたときに、「え、ちょっと待って、これ何が起こってんの?」って全然Railsの話に入れなくて。人には向き不向きがあるなと思いました。

藤村:その後、そのRailsで何か書いてあるんですか?

鳥井:ブログシステムを作ると今は言っていて、まだ半ばですね。

藤村:そのコーチも大変ですね。面白い。

もっと機会を増やしたい、その思いを込めた『ユウと魔法のプログラミングノート』

鳥井:話の流れでちょっと宣伝させてください。Rails Girlsってやっぱりある程度インターネットに触れる人が来るんですよ。なんですが、もうちょっと小さい頃から機会が増えてほしいと思って『ユウと魔法のプログラミングノート』っていう本を書きました。

ちょっと未来の世界で、みんな一人一台、この辺にふよふよ浮いているパーソナルコンピュータを持ってるんです。小学校5年生ぐらいになったら買ってもらえるいわゆる携帯電話みたいなものです。このパーソナルコンピュータはプログラミングをしないと動かないっていう罠があって、自分の身の回りの課題をどうやってコンピュータに解いてもらうの?みたいな話なんですよ。もちろん女の子が主人公で、でも別に女の子だったら、男の子だったらみたいな内容は全然なくて、とりあえず、自分の課題を技術ってやつで解決していって、それは他の人にも役に立つんだよっていうすごい思想強めな本になってるでぜひ読んでください。

藤村:絵本ですか?

鳥井:絵本じゃないです。小学生5年生ぐらいが対象なので、イラストは多いんです。ジュブナイルくらいかな。イラストがめちゃくちゃいいんですよ。『メタモルフォーゼの縁側』という漫画を書いた鶴谷香央理さんという人なんですけど、読みました?

藤村:読んでないです。

鳥井:読んでください。私は彼女が漫画を連載してる時にめちゃくちゃ推してたんですけども。

藤村:絵がかわいい。

鳥井:かわいいんです。その世界にあった明るい光のある絵を書いてくださるので、その絵を見てほしい。

藤村:今書籍の情報を見ているんですけど、近未来とはいえ、今って感じですね。あ、オライリーのキッズラインがあるんですね。

鳥井:私も初めて知ったんですけど、オライリーにはオライリーキッズっていうラインがあるんですよ、実は。

藤村:鳥井さんは、仕事で創作は初なんですか?

鳥井:初ですね。初自著です。

藤村:どうでした?

鳥井:大変さは、翻訳と別に変わらない。でも、その価値が全て自分にかかってるプレッシャーはあります。でも、翻訳だって、例えばリンダの本の素晴らしさを自分が台無しにしちゃう可能性もあるわけじゃないですか。翻訳の方が何だったら気を遣うところがあるので、一長一短ですね、大変さは。

藤村:そこで聞きたいんですけど、翻訳も結構されてますよね。

鳥井:そうですね。リンダの絵本が4冊、『Girls Who Code』、それから『プログラミングElixir』を笹田さんと一緒にやっていますね。

藤村:翻訳はライフワークというか、お金をもらう仕事だと思うんですけど、プログラミングとは別ラインで自分の仕事って感じなんですか?

鳥井:別ラインでもなくて、私はプログラムを書いているときも、人の都合をコンピュータに翻訳してるみたいな気持ちでいるので、そんなに変わらないんじゃないかな。日本語のクオリティにこだわるかどうかくらいじゃないかと思います。でも、プログラミングだってコードのクオリティにこだわるから、違いはないんじゃないかな。

藤村:(本の)翻訳もコーディングも翻訳なんですね。

鳥井:だと思ってやっています。翻訳の中にも構築するというか、組み上げるものがあるので。翻訳についてはどうですか、角谷さん。プログラミングと違うっていう話ですね。

角谷:パズルじゃないですか。一文字目から始めて、最後のピリオドまでいけば終わるから。質の問題はありますけどね。

藤村:プログラミングが翻訳であるというのは、言語に対する認知が高度過ぎる人の話な気がするけどな。プログラミングはどことどこの翻訳なんですか?

鳥井:まず現実世界があるじゃないですか。翻訳でいうと、もともと原文があって、英語と日本語って1対1では対応してないですよね。だから結局、その英語の裏側にある、そこに構築されたものっていうものを反映して、それを日本語にしているので、だいたいプログラミングじゃないかなみたいな。

角谷:わかってきた。

藤村:中間というか、ひとつ親がある感じ?

鳥井:そうですね。イデアの世界があって。そのイデアの世界は我々は完全に感知することができなくて、自分の論理を組み立てることしかできない、その表現がさまざまにある。それがプログラミングだったり、日本語だったりするというだけの話かな。

角谷:たしかに。原文の伝えようとしているメッセージのモデルがあるんですけど、それは日本語で書かないといけなくて、word to wordの変換だと、台無しになっちゃうんですよね。という意味では、プログラミングに近いですね。要求を聞いて、自分で書かないといけないからというのがある。という意味では同じでした!

鳥井:ですよね。

藤村:漫画とか、小説とかは何かの表現の一インスタンスなのか。

鳥井:それは一インスタンスなんですけど、あらゆる表現の層だと思うんですけど、表現方法によってイデアの世界は、私たちは決して感知しえないものなので、構築するのは、最終的には言語や、漫画、小説という表現だったり、プログラミングという表現だったりする。でも、プログラムのできることしかできないし、そのプログラムによって、構築するしかない。この世には現実しか最終的にはないので、現実であるということがこのプログラミングであり、日本語なんですよ。そして、私が今喋っている言葉なんですよ。

藤村:プログラミングは動くから面白いですよね。

鳥井:そうですね。プログラミングのいいところは、そこの構築が間違っていると、絶対動かないとこなんで。そういうフィードバックもいいところですね。そこのパズル感が楽しい。

藤村:プログラムも表現ですよね。

鳥井:そうですね。表現だと思います。表現というのは、好き勝手やるものではないんですけど、プログラミングという手段であり、手段なんだけど、プログラミングという、この世にある現実。ずっと話がループしている気がする。

藤村:鳥井さんにとってプログラムって、鑑賞対象ですか?

鳥井:よく読むかって話ですか?

藤村:読んで、いいねって気分がよくなる。漫画とか小説って鑑賞して楽しい!みたいなものがあるじゃないですか。プログラムにはそういう要素がありますか?

鳥井:仕事で読むことが多いのはそうなんですが、プログラムというより、プログラムを作る人たちの思想が鑑賞対象みたいなところがあるんですよね。別に、仕事と何も関係ないんですけど、Rubyインタープリタの話を聞くのが好き。そういうところがありますね。

藤村:作家性がありますよね。

鳥井:そうなんですよ。あと、時々笹田さんがうちでRuby開発者会議をやっているのが聞こえるんですけど、それとかめちゃくちゃ楽しいですね、盗み聞きするのは。

角谷:おうちで「Ruby Committer and the World」じゃん。

鳥井:そう。

藤村:ずるすぎるなぁ。弊社には卜部さんがいるので、卜部さんがGitHubのページを見ながらこれはこうでと説明をしてくれるRuby開発者会議レポートがあるんですけれども、面白いですよね。

鳥井:面白いですよね。人間はこんなことを考えて言語を作るのかって思いますよね。

藤村:そうそうそう。最高クラスに面白いですよね。

鳥井:そうなんですよ。ずっと名前が決まらないから、実装されないみたいな。

藤村:俳句ですか?みたいな感じですよね。翻訳とプログラミングっていう項目が、僕のメモに入ってたんですけど聞いてよかったなと思いました。

裏垢に詩を投稿している

藤村:最近興味あることはありますか?

鳥井:私は今、詩を書いています。こっそりTwitterの裏垢に詩を書いてたり、詩の雑誌がいくつかあるので、ちょっと前はそれに投稿したりしていました。私はあまり投稿が向いてなくて、定期的にWordファイルを出力して封をして送るという事務作業が向いてないので それはあまりやってないんですが。同人誌の詩誌というのがあり、それに誘われて年に3回ぐらいのペースで寄稿しています。

藤村:僕、詩って全然詳しくないんですけど、どういう人が好きですか?

鳥井:私がずっと好きなのは吉原幸子という詩人です。まず詩的という話があるんですが、詩の世界っていうのはあまり論理じゃなくて、論理を言葉で超えるっていうアンビバレントな世界なんです。

言葉というのは基本的に何か論理を語ってしまうんだけれども、言葉と言葉を論理でない組み合わせによって、その場に存在しないものを作り出そうとするっていうチャレンジが詩だというのが私の解釈で。今のは詩人に聞かれると多分いろんな理論があると思うんですけど、今までやってきたことを裏切る活動なのが楽しいんです。吉原幸子という人はこの中で女性の存在というものをそういうふうに表現しようとしています。女性である自分あるいは子供である自分、子供であったけれども子供ではない自分みたいなものを表現しようとした人で、ただひたすらめちゃくちゃかっこいいんですよ。吉原幸子をググったと思うんですけど、ビジュアルがまずかっこいいですよね。

藤村:これはかっこいいですね。

鳥井:かっこいいでしょ。その方の詩が好きです。

藤村:プログラミングと真逆というわけじゃないけど、裏切る行為と仰っていたのはその通りですよね。

鳥井:なので裏垢でやっています。

藤村:なんかの写しじゃないってことですもんね。

鳥井:そうですね。

藤村:写しじゃないものってどうやって作るんですか?

鳥井:全然わからないんですよ。全然わからないからとりあえずやってるって感じですね。

藤村:破れたみたいな時もあるんですか?

鳥井:ああこれかっこわるい、みたいな時はありますね。

藤村:ほう。プログラマーの人が意外と詩を書いたら、ここが論理の世界の端っこだったみたいなのがわかるのかもしれない。わからないか。

鳥井:うっかり論理を書いてしまう自分に直面しますね。

藤村:そうなんですね。論理そのものに興味はありますか?

鳥井:興味があるというかちょっと自分の快楽っぽいところと繋がってる感じがあるんですよね。

藤村:プログラムってピュアな論理じゃないですもんね、現実との折り合いがあるというか。

鳥井:ピュアな論理の世界もあるんでしょうけど、私はそんなところにいないという感じですよ。仕事的に。

藤村:仕事ではないですよね。学問の世界だと、論理学をやるっていう茨の道があるんですけど。

鳥井:いつも世界の方が複雑すぎるみたいなことを思っています。

藤村:詩とかが世界の複雑さの表現でもないですよね、世界をもっと複雑にしようという試みなのかな。

鳥井:そうですね。しかもそれを人にわからせなければならないっていう。

藤村:そうですよね。

鳥井:謎なんですよ、謎しかない。

藤村:写しじゃないから理解は難しいと思うんですけど、わかる詩っていうのがあるわけですね。

鳥井:わかる詩があるんですよ。でも、それが万人にわかる詩ではなくて、谷川俊太郎みたいに射程範囲が広い人もいるんですけども、別に射程範囲が広いという一つの価値が全てではなくて。すごい狭いけどめちゃくちゃ刺さるみたいなこともあるわけです。吉原幸子はそのタイプで、私はめちゃくちゃわかるって思って読んでるんですけど、詩評を聞くと抽象的でわかりづらいと言われている感じで。

藤村:わかるまでにステップがあったんですか?

鳥井:最初は言葉のかっこよさみたいなところからですね。

藤村:形式的に理論を理解したからわかるわけじゃないですもんね。

鳥井:原幸子は本当にキラーフレーズが多くて、詩の冒頭がめちゃくちゃかっこいいんです。

"死んだ男の傍らで、あの時死んだお前は死んだか"

っていうところから始まる詩とかですね。

藤村:たしかに現実壊しですね。読んでみよう。これ僕が聞きたい話を聞いてるだけなんですけど、でもこういう話をみんなが聞くことないじゃないですか?

鳥井:だから面白い。

藤村:プログラマーの人はいろんな人がいるし、一個人のそういう話っていうのは厚みが全然違うので。

鳥井:多分この中の誰をここに座らせてもこれぐらい面白いと思いますよ。

藤村:たしかに。

鳥井:子供を育ててわかったんですけど、一人の人間で無限に面白いんですよね。子育てするときに、人間は3年くらいで飽きるっていうじゃないですか。子供に3年で飽きたらどうしようかなって思ってたんですけど、意外とちゃんと付き合うと無限に面白いんだな人間はと思っててすごい実感してます。

藤村:面白いところが新しく生まれてくるんですか?

鳥井:そうなんです、刻一刻と変化するし、その割に一貫しているものもあるし。本人が変化してるのもあるけど、自分との関係性の変化っていうのもまたあるし、なんか複雑。

藤村:なるほどな。ところで、鳥井さんは問題意識、課題意識って持つほうなんですか?

鳥井:問題意識、課題意識は持たない方です。この世の全てをそのまま受け入れてるつもりなんですけど、向こうがつっかかってくるので問題意識になってしまう。

藤村:最近つっかかってきたものはありますか?

鳥井:最近は小学校ですね。小学校という存在がつっかかってくるんでどうしようかなと。不合理な世界なんですよ、不合理なんだけど不合理なりにそれまでやってきた論理とか実績もあって、それがその形である理由は確かにあるんですよ。でもこれをやり続けると苦しいというところを一体人はどうやって解決していくのかみたいな、そういう感じ。

藤村:物事を変えられるスピードもスタートアップとかのペースじゃないですもんね。具体的にはどういうことがありました?

鳥井:あんまり喋るとあれですけど、例えば持ち物。持ち物を毎日用意しなければならないんですが、こういうものを揃えますよみたいな情報が4種類の書類にそれぞれまたがって書いてあって、かつ参照先がわからないポインタがあるみたいな。物をすべて書き集めてリスト化しなければならないけど、それは人間には無理みたいなところがあったり。でも4つのページに分かれてるのは担当が4人、4部署あるからだみたいな理由もそこにはあるわけですよ。

だから一気にIT化しましょうみたいなので解決できるわけでもない。結局どうすればいいのかさっぱりわからないんですけど、ちょっとずつ情報整理をするというリテラシーをあげるしかないんじゃないかみたいな感じになって、人は教育にいくんだなと思いました。

藤村:ありがとうございます。

参加者からの質疑応答

藤村:会場のみなさんから質問をいただこうと思います。

参加者:翻訳はプログラミングである、翻訳は翻訳である。ご自身で今回単著を書かれましたが、それもやはり翻訳なんでしょうか?何か違いはありますか?

鳥井:そうですね。2段階あります。私が今回出す本はちょっと特色があって、打浪文子さんという方に監修に入ってもらっているんですけど。この方はプログラマーではなくて、立正大学の准教授で、一般社団法人スローコミュニケーションでやさしい日本語の活動をしているんですね。障害を持っている方や外国人の方に伝わる日本語というのはどういうものかを研究して、やさしい日本語ニュースってご覧になった方もいるかと思うんですけど、そういうものに翻訳する技術を持っていますね。

伝わる日本語とは何かっていうところを彼女に見てもらいながらやったんですけど、読者は小学校5年生じゃないですか。その小学校5年生に伝わる日本語を書くっていうのがひとつ翻訳という段階があります。

それとは別にコンテンツがあって、私が伝えたいことって簡単で、if文とは何かみたいな、if文を書くというのはどういうことかというような、ここにいる大体の人が知っていて当然のように使っているものをどう伝えるかっていう話になるので、ほぼ翻訳だと思っています。

その考えを言葉にするところでの翻訳と言葉そのものがどういうふうに小学校5年生に読まれるかという翻訳があり、かつ物語によってその話を支える構造がある。なので、イコール翻訳ではなかったですね。でも翻訳でなかったところっていうのは別にもやもやしたものを形にするとかではなくて、伝えたい内容をどういうふうに構造で支えるかっていうところが翻訳ではなかったって感じだと思います。

参加者:面白そうですね。

鳥井:ありがとうございます。

藤村:読みたくなりましたよね。

参加者:鳥井さんは言語に興味があったり、好きだったりとか、得意だったりがあると思うんですけど、プログラミング言語をそういう観点で眺めたときにRubyってどういう風に感じられますか?

鳥井:Rubyと他の言語との差異をどう感じるかってことですよね?

参加者:差異もですし、日本語との差異とかもあるかもしれない。

鳥井:日本語との差異で言うと、コンピューター自然言語人工言語っていう差異になるので、そんなにRubyだからということはなくて、本当に表現できることが限られているからこその言語差みたいな話になると思います。あと私の経験があるのはElixirなんですけども。

ちょっと身内贔屓みたいなところがあるので、冷静な判断はできないんですが、Rubyは使う人間のことをものすごい考えている言語だなって感じていますね。その想像が当たっている当たっていない、人にハマるハマらないとかがあると思うんですけれども、一つの機能を拡張する、一つの機能を実現するときに、使う人間が今までの歴史で考えていて、その上でこう書きたいだろう、こういう風な文脈で使うにはこう書くほうが思考の流れ的に自然に考えられるだろうみたいなことを考えている言語だと感じています。でもそれはうちで開発者会議を聞いているせいなのかもしれないです。

参加者:ありがとうございます。

角谷:鳥井さんがゾンビメイクしていた写真を何かで見たんですが、鳥井さんとゾンビの関連性は?思いがあれば聞かせてもらいたいです。

鳥井:ゾンビの一番ロマンがあるところは、生前の行動を繰り返してしまうところだと思うんですよね。その中で、でも既に死んでいるので生きている状態とは絶対に違うはずなんですよ。例えばそのゾンビの生前に対して思い入れがある人は、どこまでその思いをゾンビに対して照射できるのか、そしてそれはただ照射でしかないのかというところがゾンビのロマンだと思っていて、好きだった相手がゾンビになってしまった小説を書いたことがあります。

一同:(笑)

角谷:ありがとうございます。いい話だった。

藤村:好きな人がゾンビになってプログラミングをするっていう小説はどうでしょうか。

鳥井:どうでしょうね。その人がプログラミングをしたら、その好きだったプログラムが書けるとしたらその人のことはゾンビだと思っていいのかみたいな話はありますよね。笹田さんがRubyを開発し続けているときに、私は笹田さんがゾンビでも好きなままではないのかみたいなところはある。ある?(笑)

藤村:最終的に笹田さんがゾンビ化してしまった。

鳥井:私にとって笹田さんはRubyを開発しているだけの人ではないので、そこが失われたときに思考実験になりますよね。ゾンビというのは生きているとは何かという話なんですよ。生きているとは何かであり、その人が相手を生きていると思う所の境界とは何かという話だというのがゾンビの存在、多くの人の心を掴むものではないかと思いますね。という感じでいいですか?

角谷:いいと思います。

参加者:先ほど詩を作られているというお話があったんですけれども、詩を作るということを翻訳だと思いますか?

鳥井:詩を作ることは翻訳ではないと思っています。ただ言葉によって制限されているというものは同じなんですけれども、その言葉を使うことで飛躍するものでもあると思うので、言葉と言葉を組み合わせることによって、イデアの中にも存在しないものがそこには現出するみたいなことだと思っているので、翻訳ではないと思っています。

参加者:なるほど、ありがとうございます。

藤村:というところで、いい感じの時間にもなってきたので終わろうと思います。味わい深い話が多くて、字にするのが楽しみです。鳥井さん、ありがとうございました!

鳥井:ありがとうございました。

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