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こだわりを持ったお商売を支える「STORES」のテクノロジー部門のメンバーによるブログです。

ただひたすらパズルを解くのが好き。推理小説好きな少女がプログラマーになるまで【Rubyistめぐりvol.2 鳥井雪さん】

Rubyist Hotlinksにインスパイアされて始まったイベント『Rubyistめぐり』。第2回は鳥井雪さんをゲストに迎えて、お話を聞きました。こちらは前編です。

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推理小説に衝撃を受けた小学校時代

藤村:今日はお集まりいただきありがとうございます。STORES のCTO 藤村と申します。10年ちょっとくらいRubyを使って仕事をしています。Rubyistめぐりは、僕がプログラミングを始めた頃にめちゃくちゃ読んでたのがRubyist Hotlinksで、プログラマーの人はこういう人たちなんだ!と、(Rubyist Hotlinksに載っている人は)外れ値がほとんどなんですが、めちゃくちゃ勉強になったし、励みにもなったんですよね。これをなんか引き継げないものか、新たに話を聞きたい人もいるよなと思い、始めたのがRubyistめぐりです。第2回目のゲストは鳥井さんです。

鳥井:鳥井雪と申します。Rubyのエンジニアを始めたのは、藤村さんが10年くらいなら、私は10年ちょっとくらいだと思います。万葉に入社して2年経ってないくらいでAimingに行ったので。昔、一緒に仕事をしていたんですよ。

藤村:10年ちょっと前に同じ現場にいましたね。

鳥井:Ruby歴は12、3年ですかね。主にRailsで、Webアプリケーションを作るというRubyの中で一番人口の多い仕事をしています。あとは、言語が得意なので翻訳をしています。『ルビィのぼうけん』とか、Ruby以外だと『プログラミングElixir』も翻訳しています。みなさんが知らなさそうなところでいうと、実は子ども向けプログラミング教育の会社で教材顧問みたいなことをしています。

藤村:では本編に入っていきます。僕らが同じプロジェクトだった時の話も面白いから、その中で話せればと思っています。子どもの頃の初期の記憶でこんなことをやってたなみたいなのって何かありますか?

鳥井:私の家庭は、私の世代には珍しい両親が完全共働きの家で、しかも父親は私が幼稚園の時に単身赴任になったので、母親が大体一人育てていたみたいな感じなんです。その補助としてベビーシッターさんがいたんですね。この間帰省したときに、その人と会って話を聞いたら、道端でずっとアリを見ていて心配になったと話をされまして、あまり変わってないなと。

一同:(笑)

藤村:虫に興味があったんですか?

鳥井:全くそんなことはなくって、でも嫌だという感じもないので。我が家では笹田さんがすごく昆虫が苦手なので、入ってきたカメムシを捕まえて外に出すのは私の役目です。

藤村:笹田家の様子がわかりつつ、その後、10代になる前に興味があったことはなんですか?

鳥井:興味があったことは、人殺しの話を読むのが大好きで、推理小説ですね。父親は家にはいないんですけど、家には本がたくさんあるんですよ。その半分以上、7割くらいは人殺しの話で、新本格推理小説の黄金時代だったわけですね。今でも活躍してる綾辻行人とかが出てきた頃で。

小学校高学年の時に家にある本棚から大人の本を何か読みたくて、引き出したのが綾辻行人の『殺人方程式』という本で、要するに人が死んで、なんでこんな風に死んだのか、どうやって殺したのかさっぱりわからなくて、そのロジックを探偵っぽい人が解明するといういわゆる推理小説なんですけど。本の中に突然死体をどうやって運んだかの図解とかが入ってくるんですね、今まで私が読んでたジュブナイルっぽい世界とは全く違った世界に衝撃を受けて、その後はずっと推理小説を読んでました。

藤村:本格的に本を読み始めたのは推理小説がきっかけだったんですね。その頃から本を読み続け…

鳥井:そうですね、割と暗い小学校時代を過ごしていたと思います。

藤村:中学校はどうだったんですか?

鳥井:中学校は地域の私立の女子校で中高一貫校に入ったんです。小学校の時は本を読んでいる人が周りにあまりいなくて、なんとなく孤立してる子どもだったんですけど、中学校に入ると本を読んでいる人がいるんですよ。それですっごく楽しくなっちゃって、余計に読んでた気がします。

藤村:周りは殺人の本を読んでるわけではないですよね?

鳥井:そうなんですね。そこはちょっとつらいところなんですけども。でもその中学校高校にも京極夏彦森博嗣の波はやってきて。その辺からは割と新書を貸し借りすることができるようになったので、私の青春でしたね。

藤村:本の貸し借り、憧れますね。

鳥井:私は銀河英雄伝説を布教していたんです。教室の窓際の席だったんですけど、全10巻と新書を積んでいて、借りに来る人が席に回ってくるみたいな版元をしていました。

藤村:ちなみにその頃ってコンピュータには触れられていましたか?

鳥井:ないんですね。

藤村:インターネットとかも?

鳥井:インターネットも何もないですね。本当に何もなくて、すごいプログラマーの人はBASICを触ってて、子どもの頃からどうしたこうしたみたいな話があるじゃないですか。笹田さん*1も例に漏れずそんな感じなんですけど、その話を聞く度にコンプレックスでずっと口をつぐんでますね。

藤村:中学校、高校も主に本を読むことがメインアクティビティだったんですか?

鳥井:他にすることあるんですか、高校って。

一同:(笑)

藤村:なんだろう、バンドとか?

鳥井:私、まず運動神経が全然良くなくて。ピアノを習わせてもらったんですけど全く音感がなくて、人前で話すのも苦手で、完全に本を読む以外のアクティビティーで楽しみを見出せない人間だったんですよ。今でもそういうところはあるんですけど。なので何もしていません。

藤村:主に殺人の本を読んで、そこから少しずつ周りの影響もあっていろんなものを読んでいた。

鳥井:あとは、リレー小説を書いていました。本を好きな友達が小説っぽいものを書くので、それの続きを書いてというのを7名くらいでずっと回していたんですね。

藤村:紙ですよね。

鳥井:ルーズリーフですよ。

藤村:今の言葉で言うと「エモ」ってやつですよ。創作を始めたタイミングもあったんですね。

鳥井:友達がやっていて、その中に入りたくて、よくわからないファンタジーを書いてました。人を殺す話しか読んでなかったので、ファンタジーに対する理解がなくて。友達たちは多分ファイナルファンタジーとかゲームの世界観のオリジナル小説を書いてて、私は全くわからないなりにオリジナルに繰り出していたって感じですね。

藤村:ゲームやアニメもほぼ通過せず?

鳥井:そうです、うちはゲームが禁止だったんですよ。大学に入ってからめちゃくちゃやりましたけど。

藤村:中高まで主に活字、わりとストイックだったのは面白いですね。

鳥井:でもそういう人は多いんじゃないですか?そんなことないかな?

藤村:同世代ですよね?スーパーファミコンとかのブームがあったので、それを一生懸命やっていたと思うんですよね。

謎解き感が好きで美術史学に進んだ大学時代

藤村:大学では何をやっていたんですか?

鳥井:2年間は教養学部でいろんな教養を仕込まれて、3年生からは美術史学をやっていました。絵を描く方ではなく、美術の歴史ですね。この作家はどういう時代背景があって、こういう美術の流れの影響を受けたからこういう表現をしているんだよっていうのを当時の人が書いてる文や手紙、雑誌などを集めながら考えたり証明したりする学問ですね。なんとなく納得させられれば勝ちみたいな学問です。

藤村:美術史に行ったのは、美術に興味があったからなんですか?

鳥井:美術が好きだったのと、図像学、アイコンっぽいものが好きだったんですよね。私がやっていたのは西洋絵画が中心だったんですけど、元々聖書が好きで。話は小学校に遡るんですが、父親がスイスに単身赴任することになって。夏休みに会いに行ってヨーロッパを回っていたんです。ヨーロッパに行くとたくさん絵を見るじゃないですか。そこで何を描いているかさっぱりわからないけどすごい、何を描いてるんだろうっていう興味がまず最初にありました。聖書や西洋の文化が背景にあってこういう表現をしてるんだよと。だいたい推理小説を読んでいるのと同じ時ですね。

藤村:謎解き感があったんですか?

鳥井:そうですね。その謎解き感が好きで美術史学の道に進みました。

藤村:伏線があるんですね。推理小説からの流れが美しいなと思って。

鳥井:伏線を回収する本ばっかり読んでるんで。

藤村:その頃もまだコンピュータは登場していない?

鳥井:登場していないですね。大学時代は卒論をパソコンで書いたくらいですよ。

藤村:ほう。主に美術史に関する本をたくさん読み、これはキリスト教的にはどういうコンテキストがあるのかみたいなのをやっていたんですか?

鳥井:最終的に19世紀末のイタリアの画家でジョヴァンニ・セガンティーニという人がいて、ジョヴァンニ・セガンティーニについての卒論を書いたんですけど。今度(RubyKaigi 2023で)松本に行かれる方もいますよね?以前ジョヴァンニ・セガンティーニの展覧会が松本でやっていたんです。なぜかと言うと、ジョヴァンニ・セガンティーニはスイスの山岳の景色をたくさん描いた方なんですけど、松本の山ってスイスの山に似てるという理由で松本で美術展が開かれて、私も見に行きました。ぜひ松本の山を見たら、これがスイスの山岳に似ている山だと思っていただければと思います。

藤村:近代美術ムーブメントみたいなところの人ではない、割と伝統的な絵画というか。

鳥井:伝統的なんですけど、点描画なのですごい細かい点で書いて、それによってスイスのすごい澄んだ大気と太陽がすごい近い、明るい色彩を表現するという感じの画家です。

藤村:イタリアのめっちゃ山の方の人なんですね。

鳥井:めっちゃ山の方です。

藤村:確かに松本と似てそう。

鳥井:大体似てると思います。いわゆるスイスアルプスですね。

文系の人間がプログラマーになる道

藤村:それで主に美術というか、絵の裏側にあるコンテキストを学んだり、卒論を書いたりしたあとは?

鳥井:そんなことをしていると、社会適合スキル的な何かが足りなくてちゃんと就職活動ができなくて。ずっと本屋のバイトを続けていて、親が心配しているわけですよ。なので大学卒業した後、就職しなきゃなと思って、本屋で意外と接客が好きだということがわかったので、じゃあ営業とかできるんじゃないかなと思ったんですよね。

それで、とあるベンチャー企業に営業職で面接を受けに行ったんですよ。結構小さい会社なんですけど、その時に社長と面接をして、こいつ営業職に向いていないなみたいな空気を出され、途中で面接官が社長から技術部長に変わって、そのままプログラマーとして採用されたという経緯になります。

藤村:みなさん、これが文系プログラマーです。

鳥井:これが文系の人間がプログラマーになる道です。

藤村:僕もそういう意味では。あれ、鳥井さんは文学部ですか?

鳥井:そうです。文学部歴史学科美術史学になります。

藤村:僕も文学部出身なんで、文学部からプログラマーになる人はみんなだいたいこういう感じなのかって。僕も最初に受かった会社にとりあえず入った感じなんで。就活は一応やった。

鳥井:えらいですね。

藤村:マウンティングになっちゃった。

鳥井:適応してる。

藤村:スーツを着て就職活動をやってました。まったくあってなかったですけどね。そこで仕事のパソコンが用意されて…?

鳥井:最初はインドに外注している部分があって、運営と外注管理をやっていました。ただアドミン画面が全く足りてなくて、毎月の締めをSQLで出さなきゃいけなかったんです。そのあたりからSQLを覚えて、毎日そのシステムを触っているので、動きが把握できるじゃないですか。で、そこにソースコードがあって対応すると読めるようになって。

途中で別の日本の開発会社にテコ入れしてもらって、もっとよくしましょうと外注したんですけど、そことめちゃくちゃ揉めて。こちらは要求がいくらでも出てくるし、向こうはこの納期でこのお金だったらここまでしかできませんってなるし。追加見積もりを出してもらったら高くて、「え、これ私がやった方が早いし、安いんじゃない」と思って、私がプログラマーになりました。

藤村:なるほどね、状況が生んだプログラマーだったわけですね。

鳥井:完全に再現性がないので、いつもキャリアの話を振られても困るんですけど。

藤村:その状況でいうと、はじめは僕もプログラミングが楽しいとか一切なかったんですよ。仕事なのでやるだけ。鳥井さんは楽しかったですか?

鳥井:SQLドリルを最初に渡されて、そのドリルを解くのは非常に楽しかったです。SQLは今でもちょっと好きです。

藤村:ある種のパズル。

鳥井:完全にパズルですよね。私はただひたすらパズルを解くのが好きなんですよ。パズルを解く延長でプログラムを書いてるんですけど、そんなに自分の中から課題が湧き上がってくるものでもないじゃないですか。でもなんと仕事をしてると常に人が注文してくるんですよ。すごくいい。

藤村:仕事は無料でパズルが出題される会場。そこでRubyに出会ったのは、僕らが同じプロジェクトになる前ですか?

鳥井:Rubyを始めたのは万葉に入る少し前です。最初のプロジェクトはPHPで動いていたので、PHPからプログラマーを始めたので、プログラマー歴はプラス2年くらいですね。でも、ベンチャー企業なので先輩で頼りにしていた人がどんどん辞めていくんですよ。気がつくと私が10システムくらいを担当していることになっていて、あれこれやばいなと思って。今の環境ではテストを書くという文化がほとんどないけど、世の中ではテストを書くと幸せになるらしいということがだんだんわかってきて、ある日万葉に転職しました。

藤村:PHPワールドにいながら、Rubyに気づいたタイミングがあったんですか?

鳥井:そのベンチャー企業で私はRailsを推してて、Railsの新しいプロジェクトも立ち上がっていたので。そんなに大していいコードは書けていなかったと思います。万葉に入った頃は野生の子扱いされて、すごく教育された覚えがあります。

藤村:PHPからRailsを触り始めたときのファーストインプレッションは覚えてますか?

鳥井:PHPではすでに動いているシステムをメンテナンスしたり、機能追加をするのがメインで、Railsは1から立ち上げていたので、差を感じるというよりも全く別のものとして扱っていたので比較するようなものでもなかったですね。途中でJavaの案件が入ってきて(笑)その会社のイケイケの営業が絶対に外注して中の技術者には迷惑をかけませんといって、一番安いJavaの会社に発注して、もちろんその会社で全ての実装を完遂することができず、こちらに案件が来て、Java死すべしみたいな感情にはなりました。

藤村:それは悪い出会いですね。

鳥井:これ、Javaが悪かったんじゃなくて、そもそも発注した会社さんが独自フレームワークをお持ちで、それはブラウザからコードが書ける素晴らしいフレームワークだったんです。そのおかげでMySQL固定、しかもバージョンが低い。ブラウザからコードを書いてセーブすると文字化けするので結局ファイルをうまいこと変換するためにVimで開くか、みたいな感じで。先方とこちらで分担して機能開発を進めていたのですが、統合しようとすると設定ファイルが欠けていたりみたいな世界観だったので、Javaが悪いんじゃないと思います。

藤村:バージョンコントロールとかあったんですか?

鳥井:なかったですね。あったらもうちょっと幸せだったかもしれませんね。

藤村:そうですよね。万葉さんはどういう出会いで入ったんですか?

鳥井:経由としては、女の転職@typeですね。それに万葉が出していて、知り合いが「ここいいよ」ってリンクを送ってくれたので、女の転職@typeに登録しました。応募して、面談で色々聞いた後に「これは採用に関係ないんだけど、お酒好き?」と聞かれて「日本酒が好きです」って答えました。何が決め手だったのかわからないんですけど、採用されました。

藤村:いい話だなぁ。そこから万葉さんで仕事をし始めて、鳥井さんと同じプロジェクトだった頃って、鳥井さんはもうRubyコミュニティとつながりがありましたよね?

鳥井:ありましたね。

藤村:万葉さんにいるとそれはそうか。

鳥井:そうなんですよ、万葉にいると恵まれていて、大場さんの紹介でだいたいの方と知り合いになれます。

藤村:2011年頃、僕がAiming社にいた頃に鳥井さんが同じチームにいらっしゃって、udzuraさんとかもいましたね。

鳥井:そうですね。面白いチームでしたね。

藤村:mizchiくんとか面白い人がいっぱいいたんですよね。あの頃ってどういうテンションでプログラミングしてたんですか?

鳥井:ゲームはわからないなって思ってました。Aimingはゲーム開発会社なんですけど、ゲームそのものがよくわかってなくて、そこが大変というか申し訳なかった。

藤村:大学の頃はゲームやってたって仰ってましたよね?

鳥井:いわゆるコンシューマーゲームスーファミとかですね。大学時代は女の子3人で同居していて、そのうちの一人に教えてもらったのが基本的に古いゲームで、スマホゲームみたいなのをやったことがなくて。それは申し訳なかった。

藤村:Aimingってちょっと違う世界でしたよね。オンラインゲームで。

鳥井:しかもなぜかRailsで。

藤村:本当にオンラインゲームに人生を捧げてる人たちと一緒にやると、結構難しかったですよね*2

鳥井:そのプロジェクトの後、Aimingでアドミン系のプロジェクトをやったんですが平和だなと思ってました。いやーゲームは大変ですよね。

藤村:面白いんだけど。

鳥井:すごいたくさんリリースがあるし。

藤村:チュートリアルを作るのが本当にツライとか、懐かしいですね。その頃は、もうわりとプログラミングは面白いなって感じだったんですか?

鳥井:大体いつも同じテンションでパズルを解いているので、そんなに飽きる方じゃないんでしょうね。だからずっと同じくらい面白いなと思っています。

藤村:課題は色々変わっていくが、基本的には問題を解くっていう仕事。

鳥井:そう。課題が変わるのもいいんですよ。ゲームを開発してみたり、子ども向けのECショップを開発してみたり、ポイントサイトを開発してみたり、いろんな業務知識が入ってくるのでそれが楽しいっていうのはありますね。

藤村:どうにもうまくいかないところとか、なんかハマりが悪いところがあって、それがどうしてもうまくいかない場合に時間が無限に過ぎていく感じがありますよね。

10年越しの借りパク

藤村:全然関係ないんですけど、一回3人くらいで飲みに行って本を交換したことがあって。

鳥井:私、返しましたっけ?

藤村:僕も借りパクしていると思います、『シカゴ育ち』

鳥井:ダイベックですね。あれいいでしょう。

藤村:あれはめちゃくちゃいいですね。

鳥井:スチュアート・ダイベックの『シカゴ育ち』っていう本がめちゃくちゃおすすめなんですけど、藤村さんに貸したままですね。

藤村:今日鳥井さんと会うんだったら、10年越しの借りパクを解消できたのに忘れてましたね。

鳥井:私も完全に忘れているので、お互いにプレゼントしたということにしましょう。

藤村:そうしましょう。10年越しの譲渡取引が完了した。

一同:(笑)

藤村:その頃って何を読んでました?

鳥井:スチュアート・ダイベックはいまだに好きですね。白水Uブックスが好きでよく読んでいたのと、あの頃は海外文学をよく読んでましたね。

藤村:Uブックスがいろいろ重要な、ちょっとド王道じゃないものを出してくれますよね。

鳥井:そうですね。

藤村:マンディアルグをめっちゃ読んでましたね。

鳥井:いいですよね。

藤村:最近本屋にいくとマンディアルグの本がなくて、そんなみんな読まないよな、寂しいなって思いましたね。

鳥井:最近は子どもにずっと絵本を読んでいて、大量の絵本を摂取しています。

藤村:絵本、面白いですか?

鳥井:絵本はめちゃくちゃ面白いです。そして子どもには声で読むので新たな体験なんです。今までずっと目で追ってた文字を自分の声で味わうとまったく違う体験になることがわかってきていいですよ、絵本。完全に沼です。

藤村:お子さんに読み聞かせるのは自分にとっても娯楽になるし。

鳥井:めちゃくちゃ娯楽ですね。

藤村:絵もあるんですもんね。

鳥井:そうなんですよ。絵の良さもあり、私は漫画も好きなんですよ。絵と文字の相互作用が好きなので、絵本は完全に脳のいいところに効いてくる感じがします。

藤村:モノとしてもいいじゃないですか、ジャケットも厚いし。気をつけないといけないやつですね。

鳥井:気をつけないといけないんですよ。単価高いし、薄いと言っても場所もとるし。

藤村:たまると重いですよね。

鳥井:そうなんですよね。

藤村:こういう話を続ける会ではあるんですけど、ちょっと質問をさせてください。漫画の目覚めは?

鳥井:最初にめちゃくちゃ読んだのが『ベルサイユのばら』です。母親が高校の図書室の司書教諭という仕事をしていたんですよ。学園祭とかで古本を集めて売ったりするんですけど、時々自分が好きな漫画とか売れ残りを自分のために確保して家に持って帰ることがあって、それによって『ベルサイユのばら』全10巻がうちに積まれ、それを読んだ時の濃密さがすごかった。ちょっと古い入りです。

藤村:そうですよね、ベルばらは親世代ですよね。

鳥井:父親も推理小説と漫画を読む人だったので、本に対して何の制限も上限もない家庭だったんですよ。一時期うちには漫画雑誌が大量にありました。私が読んでいる『りぼん』『なかよし』『ちゃお』『LaLa』『別冊マーガレット』『花とゆめ』があって、兄が読んでいる 『少年ジャンプ』『マガジン』『コロコロ』もあった時代があったかな。父親が読んでいる様々な青年雑誌があって。毎週毎月ずっとうちに漫画がある家庭でした。

藤村:高橋征義さんのコンピュータ書の買い方みたいな。

一同:(笑)

鳥井:今思うと頭がおかしいんじゃないかと思ったんですけど。

藤村:すさまじい量を毎週摂取しないといけないですよね。

鳥井:でも子どもはなぜか雑誌の端から端まで読むじゃないですか。

藤村:たしかに。時間もありあまってますからね。

鳥井:それでさまざまな知識を仕入れたような気がします。

藤村:ベルサイユのばら』はどこらへんが推し、重要な論点ですか?

鳥井:最初はとりあえずめちゃくちゃ盛り上がるんです。私はオスカルが好きなんですけど、実はろくでもないオスカルが好きになってきて、心の悩みのあまりに酒をあおりまくって血を吐いたりしてるんですよ。貴族階級として生きているんですけど、このままではいけないと思って、庶民の集まる兵隊の隊長になって、でも庶民の反発を受けて。その中でだんだん信頼関係を得ていって、とうとう信頼関係を築けたときに、両手を広げて涙して走り寄る男たちのを迎え入れる、その後ろにバラが咲いているみたいな。これ本当にいいのかみたいな感じのところにグっときて。ぜひ読んでいただきたい。

藤村:はい。

鳥井:昔の全10巻ってめちゃくちゃ濃密なんですよ。今の全10巻と違う。何にしろひとつの王朝が滅びますからね。『ベルサイユのばら』を読んだことある方?ぜひ読んでください。少女漫画的なきらびやかさと、その裏で人間はどうしようもないって感じが濃密に描かれているのでちょっとびっくりしますよ。

藤村:どの雑誌でしたっけ?

参加者:『マーガレット』です。

藤村:マーガレットか。その後、自分にとって重要だった漫画ってありますか?

鳥井:花とゆめ』ですね。『花とゆめ』に連載されていた川原泉とか。

藤村:どんな人なんですか?

鳥井:川原泉は哲学者とさえ呼ばれている少女漫画家なんですけれども、『笑う大天使(ミカエル)』がたぶん一番代表作だと思います。これはお嬢様校にいるけど、お嬢様に馴染めない女の子3人がお互いに馴染めないことに気づいて、友情を確立する話です。女の子がそういうことしているのが基本的に好きなんですよ、多分女子校育ちだから。

花とゆめ』に載っている漫画は大体みんな、いわゆる陽キャじゃない人たちがそれなりに自分の居場所を見つけて何とかやっていくという話が多くて、シンパシーを感じて好きでしたね。こういうふうに生きていければいいのになって思ってました。

藤村:テーマ的に描画がエンタメばんばんばんって感じじゃなくて、じっくり味わうという感じですよね。

鳥井:そうですね。

藤村:この本もAmazonウィッシュリストに入ってましたね。鳥井さんに教えてもらったのではっていう気がしています。

鳥井:たしかに。

藤村:あとどんな漫画を読んでましたか?

鳥井:漫画だとウィングス系ですね。『ウィングス』を読んでいました。藍川さとるという作家がいて、すごい繊細な当時の、また世界に馴染めない人の話なんですけど、短編がたくさんありました。あと『花とゆめ』に載っていた山中音和ですかね。繊細で、ちょっと世界と馴染めなくて、その感覚をうまく捉えたみたいな話が好きでしたね、まあまだ若かったんでね。

藤村:ロシア文学もそういう人がやたらと出てくる時期がありますね。

鳥井:世界に対して屁理屈こねてる感じがすごい好きですね。

後編に続きます。

おまけ

今回のRubyistめぐりはRubyKaigi 2023の開催が近かったので、STORES を利用されている長野県松本市BACCAブルーイングさん草譯さんの飲み物を用意しました!みなさんに喜んでもらえてよかったです。

*1:編集注:鳥井さんの夫、Rubyコミッター

*2:藤村注:補足すると、Aimingで働いていた時間は難しいながらも本当に充実していて、藤村のキャリアにも大きな影響を与えた貴重な機会でした