STORES Product Blog

こだわりを持ったお商売を支える「STORES」のテクノロジー部門のメンバーによるブログです。

エンジニアリングマネージャーが手懐けるべき荒ぶる四天王

この記事は「STORES Advent Calendar 2022」 12/17の記事です。また、「Engineering Manager Advent Calendar 2022」 カレンダー2の12/17の記事でもあります。

こんにちは!STORES エンジニアリング室の塩谷(@kwappa)です。この記事では、エンジニアリングマネージャーの中に棲んでいる「荒ぶる四天王」について考え、うまくつきあい、あわよくば手懐けてしまおう、という試みについてお伝えします。

エンジニアリングマネージャーのしごと

この記事をご覧の方でしたら、今年8月にオライリーから発売された『エンジニアリングマネージャーのしごと』という書籍に興味がある、もしくはもう読んだのではないでしょうか。エンジニアリングマネージャー(以下EM)という重要だが定義がふわっとした仕事にどう取り組んだらいいかのガイドとなる、とてもいい本です。

光栄なことに翻訳レビューに参加する機会をいただき、発売に先行して読むことができました。EMとしての経験と突き合わせると共感できることや納得できることがこれでもかと書かれており、独自の体験やプラクティスに名前がついていたり整理されていたりする箇所がたくさんありました。

また本書では、随所にEMである自分自身と向き合い、考えさせる内容が織り込まれています。今日は、その中でも特に自分自身にフォーカスをあてた第13章「コントロールを手放す」に影響されて、EMなら誰しもが自分の中に巣食っているであろう「荒ぶる四天王」について考えます。

EMに巣食う「荒ぶる四天王」

さて、EMの中に棲んでいて、手懐ける必要がある「荒ぶる四天王」とはいったいなにか。具体的に取り上げていきましょう。

機嫌

ひとつめは「機嫌」。自分自身の機嫌の良し悪しは、仕事に思ったより大きな影響を与えてしまうのです。

まったく同じ判断をまったく同じ文言で伝えたとしても、コミュニケーションのプロトコルによっては、EM自身の「機嫌」がニュアンスとして混入することが避けられません。混入したニュアンスによって、受け手が同じ情報を微妙に異なった解釈をしてしまうリスクがあります。

また、誰だって機嫌が悪い人間には近寄りたくない、会話したくないと思うのが自然な反応です。EMという相談事の窓口としての機能が求められる立場であるなら、機嫌のせいで相談されない、つまり得られたはずの情報が得られないというのは「仕事のミス」であるとすら言えます。

適切な情報の伝達と収集のために、自分自身の「機嫌」を自分でコントロールできることが重要なのです。

機嫌は、技術を習得することである程度コントロールできるようになります。いくつかご紹介しましょう。

引き出しの中のチョコレート

自分にとって嬉しいこと、無条件で気分が明るくなることを明らかにしておき、それに意識的に接触することで悪くなりそうな機嫌をポジティブ方向に倒します。つらいとき、引き出しに隠しておいたチョコレートを引っ張り出してかじる、そんなイメージです。

具体的には「家族や子どもの写真」「仕事へのポジティブフィードバック」「バズったツイート」など、どんなものでも構いません。実際にチョコレートをひとかけかじってもよいでしょう。個人的には、タイミングが許せばサウナに行くこととクラフトビールを飲むことが一番効きます。

やがて、それに接することそのものが機嫌をよくするリセットスイッチとして機能するようになります。

チラシの裏

感情にネガティブな影響を与える事象については、古典的な「チラシの裏」、つまり物理的に紙に書くという方法が効果的です。

ネガティブな体験や感情は、アウトプットすることで折り合いをつけやすくなります。しかし、デジタルデータとして手元やクラウドに残してしまうと、後日予期せぬタイミングで目にしてしまったとき、またネガティブな影響を受けてしまうこともあります。

そこでおすすめなのが、実際の紙に詳細に書き、それを物理的に処分するというルーチンです。悪口雑言を連ねてもかまいませんし、自分のリアルな感情や関係者の実名も書いてしまいましょう。そして、書き終わったら入念に処理します。シュレッダーで裁断する、焚き火で燃やすなど、確実に復元不能にしましょう。

こうすることで、ネガティブな影響を素早く処理することができます。慣れてくると、紙に書く→シュレッダーにかけるというルーチンを思い描くことで効果が得られるようになってきます。

エゴ

ふたつめは「エゴ」。ここでは「自分本位の考え方やふるまい」という意味です。

EMという仕事は幅が広く、理不尽に思えるタスクもたくさんあります。成果が形として見えないものも多く、達成感が得にくかったり、正当に評価されていないように感じてしまうこともあるでしょう。

そういう状況が続くと、だんだん「俺の手柄なのに」とか、「こんなことしてないでコード書きたい」とか、自身のエゴを充足させたい気持ちが芽生えてくるかもしれません。ある程度はしかたないのです、にんげんだもの

しかし、こういう言動が明らかにチームに伝わってしまうのは悪影響が大き過ぎます。「機嫌」よりだいぶ手強いのですが、それでも立ち向かっていきましょう。

公式を思い出す

マネージャーのアウトプット = あなたのチームのアウトプット + あなたが影響を与えた他のチームのアウトプット

原典は『HIGH OUTPUT MANAGEMENT 人を育て、成果を最大にするマネジメント』という書籍で、『エンジニアリングマネージャーのしごと』にも繰り返し出てくる公式です。ここでの「アウトプット」は単なる成果物ではなく、「アウトカム」に近いニュアンスであることに留意しましょう。

まずはこの公式そのものを、そして右辺に「あなたのアウトプット」が含まれていないことを思い出しましょう。自分自身のアウトプットではなく、チームと影響範囲のアウトプットを最大化するのがEMの仕事なのです。

外に向かう

自分自身のアウトプットがEMとしてのアウトプットに含まれないのであれば、それを外に向けるというのもひとつの手です。講演や執筆、OSSへのコントリビューションなど、チームや会社の外向きのアウトプットは、ソフトウェア業界全体への貢献となりますし、そのまま自分自身のアウトプットとして業界からの評価対象になります。

有益なアウトプットができれば、ポジティブなフィードバックが返ってくることもあるでしょう。うまくいけば、それを「引き出しの中のチョコレート」としてストックしておくこともできます。

孤独

とても悲しい事実ですが、EMは孤独です。もちろんチームがあってこそのEMですから、メンバーと一緒に成果を出していくのが仕事です。しかし採用や評価などに関連するタフな判断は、どうしてもEMが自分自身で決断しなくてはなりません。その判断がチームメンバーにとってネガティブなもの、厳しいものになることもあります。

また、EMは横のつながりが発生しにくいポジションでもあります。チームをマネジメントすることを期待されているわけですから、組織図的に同じグループに所属する同じ職位の人が存在することは稀でしょう。同じタイミングでEMに就任する、いわば「同期生」の存在も、相当大きな組織でなければ期待できません。

その結果として、孤独を感じているEMは意外に多いように思います。単にさびしいという感情だけではなく、EMとしての仕事のうち未経験だったり不得意だったりするものについて、気軽に相談や議論をする相手がいないという状況は、知らず知らずのうちにストレスを蓄積させてしまいます。

EMとして仕事をする上で、孤独でいることにメリットはあまりありません。孤独を嘆くのに飽きたら、孤独を解消しましょう。

上司と連携しよう

いちばん重要なのは、上司からの指示を待つのではなく、あなたのほうから動き出すことです。 すなわち、上司との関係性から最大限のメリットを引き出せるかはあなた次第なのです。

エンジニアリングマネージャーのしごと』の第3章から引用しました。

EMにも上司はいます(よね?) 上司の立場としてのEMにとって「カジュアルに相談してくれるメンバー」ってありがたい存在じゃないですか?EMの上司からしても、それは同じことです。そしてEMの上司のポジションは、たいていみんな忙しくしています。

困ったことの相談はもちろん、現状の共有や単なる雑談など、積極的に対話する時間をもちましょう。それも、自分から。上司はEMに成果を出してもらうのが仕事ですから、助力は惜しまないはずです。もしそうでない上司がいたら…こっそりご連絡ください。お話ししましょう!

EMと連携しよう

同僚、つまり他チームのEMと対話する機会、意外と少ないのではないでしょうか?業務に直接関連することはあまりないでしょうし、業務に関連しないとなると年齢や趣味など他の共通点がなければ、なかなか接点が持てないものです。

しかし、評価や採用などは同じ会社であれば統一の基準があるはずです。この辺の悩みや相談、事例共有を通じて、同僚EMとの接点を増やしてみるのはいかがでしょう。

STORES でも、同じプロダクトのEM同士は業務での対話が多く発生しますが、隣のプロダクトになるとなかなか機会がありません。そのため、プロダクト横断もくもく会のような施策を通じて交流を推進しています。また、すべてのプロダクトのEMが交流する施策も仕込み中なので、いずれお伝えできればと思います。

コミュニティに出ていこう

組織の規模によっては、社内に連携すべきEMがいない、なんてこともあるかもしれません。それでも、ソフトウェア業界なら大丈夫。いろんなコミュニティが活発に活動していますから、仲間を見つけるのはそれほど難しくありません。もしまったく心当たりがなければ、このEngineering Manager Advent Calendar 2022参加記事を読んでみると、きっとヒントがあるでしょう。もちろんぼくにご連絡いただいてもかまいません!

健康

四天王の最後にして一番の強敵が「健康」です。

ずいぶん前から、「健康は命より大事」と言い続けています。今まで紹介した「機嫌」「エゴ」「孤独」を倒すためにも、ベースになるのは「健康」です。だって、不健康な状態で機嫌よくふるまうのは難しくないですか?エゴを抑えてEMらしくふるまうのも、孤独を解消するために交流範囲を広げるのも、健康がベースのエネルギーあってこそです。

EMは基本的に忙しく、また仕事の割合としてミーティングが多くなりがちです。ここ最近はリモートワークが中心になっているでしょうから、外にも出ず自宅でずっと座って喋っている、というのは心身の健康に少なからず悪影響があります。

四天王を手懐け、EMとしてHIGH OUTPUTするためにも、健康のための施策や投資はケチらず行いましょう。

いくつか個人的なプラクティスをご紹介します。

散歩と体操

ちょっとだけ早起きして、朝食前に軽く運動するのは心身にとてもよい影響があります。近くの公園まで速足で歩き、軽く体操をする、というのがオススメです。ラジオ体操がYouTube第一 第二 ともありますから、スマートフォンを持っていけばどこでも再生できます。超ラジオ体操もおすすめです。

3つ全部やるとちょうど10分ぐらい、真剣にやると軽く汗ばむぐらいの運動量になります。続けると肩こりもだいぶ緩和されました。

水を飲む

よくある健康法として「1日2リットル水を飲みましょう」というのを聞いたことがあるでしょうか。やってみると結構大変なのですが、思ったよりずっと重要です。個人的な話で恐縮なのですが、先日痛風の発作を体験して思い知らされました。

このために電源不要の浄水ポットを購入し、毎日カラにするのを目標に飲みまくっています。もうあんな痛い思いはしたくないので…。

仕事環境を整える

仕事のための道具は触れている時間が長くなりますから、ストレスをできるだけ排除するのが大事です。キーボードや椅子、スタンディングデスクなどは代表的な投資です。

ガジェット導入以外にも、椅子とデスクの高さを調整する(肘と膝が直角になるのがよいらしい)、暑さ寒さを感じにくくする、照明の照度と色温度を調整するなど、居心地に影響するパラメータはけっこうたくさんあります。違和感があるところを放置せずに、継続的に改善していきましょう。

四天王を手懐けよう

ということで、EM自身の中に棲む四天王についてお話ししました。EMとは幅広く奥深い仕事ですから、まだまだ知るべきこと、学ぶべきことがたくさんあります。チームとプロダクトが健康に成長していけるように、これからも精進していこうと思います。

チームとプロダクトにご興味を持たれた方は、ぜひこちらからご連絡ください! jobs.st.inc